図1:8手目 相手ゴキゲン中飛車を採用
ブログの投稿は約3週間ぶりだが、その間指していなかったわけではなく、むしろより多く指していた。何故か結構勝てており三段を無事キープできている。ただ、内容はあまり良くないものが多い。実際、対藤井システムの棋譜を投稿しようと思ったがソフトと検討すると悪手の連続でとても自戦解説に値しないようなものだった。
ただ本局は先手の田口に対し後手の方はゴキゲン中飛車を採用された。ゴキゲン中飛車とは角道を止めずに5筋の位を取る中飛車戦法のことで、近藤正和七段が発案した戦法。ゴキゲン中飛車のゴキゲンとは近藤七段の人柄のことを指している。一時期はプロ間で圧倒的な勝率を誇ったが先手に有力な対策ができて現在は下火になっている。
田口はこのゴキゲン中飛車相手には勝率は7割程度あり、得意にしている。
図2:16手目 後手4四銀対抗形を採用
先手は▲6八玉と上がりすぐに▲3六歩から右銀を中央に繰り出していく「超速3七銀」と呼ばれる戦法を採用した。これは星野良生四段が奨励会員時代に発案した戦法でこの戦法の出現によりゴキゲン中飛車の勝率が激減したのである。
対する後手は負けじと△4四銀と上がる形を採用した。超速3七銀に対して後手の指し手はいくつかあるが、この形もプロ間でよく指されている。しかし田口が最近読んだ「久保&菅井の振り飛車研究」(*1)でこの△4四銀対抗形は久保九段、菅井五段とも良いイメージがないという見解を示されていた。振り飛車党の大家二人がどのような順を嫌がっているのかを読んで覚えていたので自信を持って駒組みを進めた。
図3:37手目 本来後手が許してはいけない▲8六角
4四銀対抗形の将棋では相穴熊の将棋が多い。本局も相穴熊となった。この局面は後手の△5四飛という手が疑問手で先手が既に良くなっていると思う。その理由として
①先手の金の方が後手の金より玉に近いので囲いの耐久力が高い
②先手の角は後手陣を睨んでいるが後手の角は現状4四銀と5五歩が邪魔で守りにしか利いていない
③先手は右桂を3七桂、4五桂と中央に使っていけるが後手の左桂は角が邪魔で攻めに使えない
4つ目の理由は後述するが、以上の理由からここから負けるわけにはいかないと思っていた。②の理由を防ぐために後手は本来△4二角という手を早い段階で指して▲8六角という手を許してはいけないのだがそれが実現しているのが大きい。この△4二角という手は村山慈明七段の「ゴキゲン中飛車の急所」(*2)という定跡書に詳しく載っており、後手の勉強不足である。
図4:44手目 先手理想型からの開戦
前述の「久保&菅井の振り飛車研究」において4四銀対抗形は何かのときに▲4五銀と銀をぶつけられるだけで仕掛けが成立してしまうのが嫌だ、という見解を示されていた。先ほど後述すると言ったの4つ目の理由は
④▲4五銀の時に飛車取りになるので△同銀としかできない
というのもある。そのため△5四飛は疑問手だと思ったのだ。本譜は図4から▲4五銀、△同銀、▲同桂に後手の方はうっかり△4四歩と桂取りに歩を伸ばしてしまったが▲6三銀で飛車が詰んでしまった。田口が後手なら投了(*3)してたと思うほどのミスで後手は△4四歩のところで△5二金と▲6三銀を打たれないように頑張るしかなかったのではないかと思う。(ただそれでも▲6五歩と突かれて先手の攻めは続くが)
図5:62手目 後手△4九飛の頑張りだが・・・
局面は先手が勝勢だが後手に飛車が渡っている。現在は先手が角得の上玉型も堅いので当然攻めの手を指しても勝てる。が、ここで友達をなくす手を指してしまう。
▲1八飛。右端にいる香車すら渡さないという強欲な手でネット将棋だから指した手であると言える。面と向かって指している相手にこんな手を指したら性格の悪さが疑われてしまう。是非注意されたし。
図6:76手目 詰めろを防ぐ△4一龍に対しての決め手(?)
諦めの早い田口からすると後手の人は何故指し続けられるんだろうと思える局面が続き図6の局面。田口の次の一手は▲4八飛。最善手ではないと思うが、△同龍は▲8一金の一手詰めで取ることができない。△4二歩の一手に▲5二金と追い打ちをかけたところで後手投了となった。以下それでも指すなら△7一龍しかないが▲同金、△同銀、▲4一飛、△7二金、▲3一飛成、△3七桂成、▲4二飛成(▲8七銀から勝ちになっているが敢えて笑)と徹底的にメンタルを折りにいくのが、諦めの悪い相手には良いだろう。
本局は序盤の作戦勝ちから中盤で相手に致命的なミスが出てそのまま勝勢になったという将棋であった。改めてプロの定跡書を読みまくることが棋力の向上に大いに役立つことを思い知った一局だった。
※1 久保利明、菅井竜也「久保&菅井の振り飛車研究」 振飛車党で捌きの棋風で知られる二人の棋士が現代振り飛車の将棋で重要と思われる局面について各々の見解を語り、和やかな雰囲気で対談している。ゴキゲン中飛車については現状は正確に指せば居飛車有利だが実戦的には居飛車が正確に指すのは大変で、むしろゴキ中の方が指し手がわかりやすく指しやすいのではないかという見解を両者示している。
※2 村山慈明「ゴキゲン中飛車の急所」 ”序盤は村山に訊け”と言われる程の研究家である村山慈明七段のゴキゲン中飛車の定跡書。ゴキゲン中飛車に対する対策を時系列的に紹介しているのでプロがどのような研究をしてきたか歴史書としても読める名著。ゴキゲン中飛車に関しては本著と菅井五段の著書「菅井ノート後手編」を読めばアマチュアレベルで必要な知識は網羅できると思う。
※3 田口は諦めが早い。アマチュアレベルなら逆転できるかもしれないような局面でも指してて辛いと投了してしまうことがしばしば。ちなみに諦めが早いプロの代表に島朗九段がいて、タイトル戦のニコ生でも形勢に差がつくと「島なら投了」という文字が飛び交う。