図1:15手目 難敵、先手藤井システム
本局の田口は後手である。今回の相手は先手藤井システムを採用してこられた。
藤井システムとは藤井猛九段が考案された対居飛車穴熊に対して居玉のまま攻めつぶす戦法のことで、今から15年程前にプロ間でも大流行した戦法である。今ではプロ間では勝率が下がり、下火になっているものの、アマチュアでは先後共に藤井システムは勝ちやすい戦法ではないか、と田口は考えている。
プロは藤井システムの序盤を網羅しているからこそ、居玉での速攻に対して簡単に潰れないが、アマチュアではそうはいかない。田口はこの藤井システム相手を苦手にしており、慎重に駒組みを進めることにした。
図:25手目 早すぎる(?)▲4七銀を咎めにいく
田口は無難な駒組みに終始していた。本当は△2二玉と指したいのだが、玉が角のラインに入ってしまい、いきなり▲4五歩と仕掛けられても正確に受け止める自信がない(△2二玉自体は成立する手。田口の受けの技術の問題)
そこで△7四歩と突いた。これは先手の角頭を狙うとともに、現局面で3三にいる角の転換も見た一手である。反面△7四歩という手を指すと先手に飛車を7筋に振り替えて攻め返される順があるため、後手は穴熊に組むことができなくなるというデメリットもある。
個人的には序盤で相手玉より堅い玉型を築かないと中終盤力的に厳しいので本来ならば指さない手なのだが、相手が早い段階で▲4七銀と上がったことで先手玉が堅くならないと見て△7四歩を突くことができた。個人的には先手の▲4七銀は疑問手だったのではないかと思う。
図3:38手目 田口、まさかのミレニアムへ移行
先手の角のラインを避けながら玉を囲おうと考えた結果、あまりにも久しぶりにミレニアムが完成した。
ミレニアムとは西暦2000年に当時猛威を振るっていた藤井システムに対して三浦弘行現九段が考案した囲いで、穴熊に組むことを諦める代わりに振り飛車の速攻を封じて終盤力勝負に持ち込めるという囲いである。2000年に考案されたことからミレニアムと呼ばれている。
まさか自分自身ミレニアムに組もうと考えていなかったのだが、角を転換したらミレニアムのことを思い出して組んでみたくなった。組んでみての感想だが、横からの攻撃には弱いものの、藤井システム特有の角のラインを活かした攻めには強いという印象でその優秀性を感じることができた。三浦九段の構想力に改めて敬意を抱く次第である。
図4:43手目 中盤の難所、小ミスを連発する田口
後手は飛車を右四間に振って先手の6筋の位を奪い返すのが居飛車のよくある攻め筋だ。図4の局面は後手が一本取った形で、単純に△6五歩と歩を取れば▲同銀だと△7三桂で銀が逃げると飛車交換になり、飛車を先着できて玉の堅い後手が有利になるし▲5七銀でも単純に一歩得できて6筋の位を奪えて調子が良い。
・・・にも拘らず何を考えたか田口の次の一手は△7三桂。その後も突かなくて良い8筋の歩を突いたり、銀の使い方がおかしかったりと仕掛けてから反省点が多すぎた。
図5:54手目 次の一手が先手の敗着
が、将棋は最後に致命的なミスをした方が負けるゲームなのである。田口の小ミス連発で折角奪ったリードがなくなってるが、先手はここで▲6五同飛車と飛車交換に応じてしまったのが敗着になってしまった。飛車交換になると後手の角と桂がいい位置にいるが、後手は9七の角を活用するために▲8五歩の一手が必要で、その一手が間に合わないのである。
図5の局面で先手の最善手は▲6七歩のようだ。先手としては6筋を完全に逆襲されてかなり悔しいようだが、後手は一歩損して歩切れなので意外と後手からの攻めの継続が難しい。
図6:63手目 激指先生指摘の恐るべき詰み筋
図6の局面で、先手はミレニアムの弱点である3二の金を狙っているが詰めろではない。なので詰めろをかけ続ければ勝てるとみて△3九銀と田口は指したのだが、激指先生はなんとここで詰みだというのだ。次の一手に田口は驚愕したのだが、わかるだろうか。
正解は△2七銀。▲同玉は△2八金の一手詰めなので▲4七玉だが、以下△3六銀成▲同玉△3五香▲4七玉△3六金▲3八玉△3七金▲同金△同香成▲同玉△2五桂打(!)以下長手数だが詰む。とても30秒将棋で銀をただで捨てて歩の頭に桂打って詰ますなどできないが、このような詰み筋もあるということを覚えておくと、何かの時に役立つことが多い。
・・・というとこで本局は苦手の藤井システム相手にミレニアムで完勝することができた。やはり横からの攻めには弱いので勝率は高くはならないだろうが、指してて面白かったので、今後藤井システム相手に採用する頻度を上げていこうかと思う。