田口の考える藤井四段の凄さ-序中盤編-

藤井四段に感化されて2手目を△3四歩から△8四歩に変えてみたら後手はおろか先手でも勝てなくなっている今日このごろ。

ということで、藤井四段の序中盤について個人的に凄いと思えるところを挙げたいと思います。

まず将棋の序盤、中盤、終盤ってなんだ、というところですが端的に言うと

序盤:攻めの形を整えたり、王将を攻められにくくするよう金銀などで囲いを作る段階
中盤:お互いの駒がぶつかり始め、相手の王将を寄せにいく構図を描く段階
終盤:どっちの王将が先に詰むのか計算する段階

一般的に、序中盤は大局観と呼ばれる感覚的な形勢判断の正確さが必要とされ、終盤は正確な読みが必要とされています。

過去の中学生棋士達のデビューして間もない頃は、終盤力は圧倒的なものの序中盤で差をつけられて負けることも多かったそうです。例えば羽生三冠はデビュー後すぐにいろんな棋士に勝ちまくっていましたが「序盤のエジソン」の異名を誇る田中寅彦現九段を苦手にしていました。序中盤は読みだけではなく経験がものを言う部分もあるようです。

なので、藤井四段もきっと序中盤はまだそこまでなのだろうと思って見てみたら…なんとも中学生らしからぬ完成度の高い序中盤を見せ続けてくれています。

では具体的に見ていきます。まずは藤井四段のデビュー初戦の対加藤一二三九段戦です。

図1:対加藤九段戦35手目の局面

手前側が加藤九段、奥の側が藤井四段です。藤井四段がどのような戦法を選ぶかは予てより注目されていました。というのも加藤九段は序盤の戦法によって勝率にかなりの差があるタイプだからです。加藤九段の弱点の四間飛車を採用するのかそれとも…という中で選んだのが加藤九段が最も得意とする「矢倉加藤流」を受けて立つ、というものでした。

加藤九段も引退間近だったとはいえ矢倉加藤流に関してはまだまだ若手の有望株数人に勝っているほどの強さを持っているだけに危険な選択に思えましたが、序中盤を上手く指し回し徐々にリードを奪って結果は快勝。この後も敢えて相手の得意戦法を受けて立つような序盤が何局か見られることから、連勝記録で周りが騒ぐ中でも当の本人は目先の勝ち負けにこだわらず自身の棋力向上を第一に考えているのではないかというように見えます。

図2:藤井聡太四段炎の七番勝負 対羽生善治戦27手目▲4五桂

一方、こちらは藤井四段の対羽生善治三冠戦です。今度は手前側が藤井四段です。

局面は藤井四段が▲4五桂と跳ねた局面で、昔はこの早い段階で桂馬が跳ぶと「桂の高跳び歩の餌食」という格言もあり、よくないとされていました。が、将棋ソフトの影響で人間の間でもよく指されるようになった手です。

今ではこの▲4五桂と跳ねる手が優秀だと認知されているので、羽生三冠が藤井四段の攻めを受けて立ちましょう、ということだろうと思われます。公式戦ならば羽生三冠はもっと本気で勝ちに来るだろうと思われるのでこの序盤にはならないと思いますが、とはいえそこから藤井四段がソフトかと見紛うような完璧な序中盤の指し回しを見せて優位を築き、羽生三冠の力を出させる前に勝ちきってしまいました。この羽生三冠戦以外にも藤井四段は将棋ソフトの推奨手との一致率がかなり高いことが知られています。

さぞや小さい頃から将棋ソフトに触れ合っていたに違いないと思いきや、将棋ソフトで研究し始めたのは1年ほど前というのだから驚きです。この1年間かなりの時間を将棋ソフトとの研究に割いていて且つ物凄く高い記憶力で覚えているのだろうと推測できます。

以上をまとめると、藤井四段の序中盤の凄さは

・目先の一勝にとらわれず相手の得意戦法を堂々と受けて立つ精神の強さ
・将棋ソフトネイティブ世代
・昔ながらの矢倉も最先端のソフトの将棋も指しこなす研究量と記憶力
・中学生らしからぬ完成度の高さ

次回は藤井四段の真骨頂とも言える終盤力についての考察をしたいと思います。

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