図1:22手目 後手横歩取り8五飛4一玉型を選択
今回田口は先手である。実は5月9日は私の誕生日だったのだが、やることはいつもと変わらずネット将棋である。本局は数年前にプロ間で大流行した戦型である横歩取り8五飛4一玉型との対局である。
田口はこの戦型を3年前には最も得意な戦型にしており、中でも「新山崎流」と呼ばれる変化を猛烈に研究して初の24三段突破を果たした程である。
しかし、そんな大流行した戦型も今では下火になっている。その理由も解説しつつ、棋譜を振り返ろうと思う。
図2:26手目 後手危険な駒組み
本来後手は5一金、4二銀と指して「中原囲い」と呼ばれる形に組んでから右桂を跳ねるのだが、後手はいきなり桂を跳ねてきた。
対局中は違和感を感じながらも田口は玉の囲いを優先したが、図2から▲3三角成△同桂▲7七桂△8四飛▲9五角△8三飛▲7五歩と進んで右上図まで進むと速い桂跳びを上手く咎めた格好だ。以下△9四歩には▲7三角成(!)△同飛▲6五桂で攻めが切れない。
次同じ駒組みをされたらこの仕掛けで一気に潰したい。
図3:31手目 横歩取り8五飛4一玉型のテーマ図
横歩取り8五飛4一玉型がプロ間で廃れた原因には前述の「新山崎流」という有力な対策に加え、図3の先手の形が出てきたのが大きい。
後手の金銀4枚は左右に分断しているのに対し、先手の金銀4枚は密接しているので後手玉より堅い。なので、勝率を重視するプロの将棋からは現れにくくなった。
アマチュア間でも横歩取り8五飛4一玉型は激減したが、実際にはこの局面も難しい。個人的には△7五歩と仕掛ける手は結構有力ではないかと考えている。
図4:36手目 後手、先手の仕掛けを徹底的に警戒
後手は図3の時点で仕掛けを見送ったことで、自分から仕掛けず、徹底的に仕掛けを封じるために△2三歩を打ってしまった。歩は2枚ないと有効な仕掛けは後手からなくなるため、後手は先手に攻められるのを受ける将棋になっている。
ここから▲7五歩という手が有力だったみたいだ。しかし、田口は9筋を狙おうと考えた。
図5:42手目 横歩取り 一手の油断が 命取り
結論から言うと、田口の9筋を狙う構想はあまり筋の良いものとは言えなかったようだ。が、後手の6三銀が田口の筋悪の構想を成立させてしまう痛恨の敗着となってしまった。
9筋の歩が伸びていなければ△6三銀という手は悪い手ではなく、次に△6二金と上がれば後手陣のバランスがよく、色々な狙いも出てくるのだが、この場合は▲9四歩の仕掛けが成立する。以下△同歩だと▲9二歩なので△6五歩だが、この時に▲5五角が桂取りになってしまうのが△6三銀の罪。桂取りを受けると9筋突破が確定し、先手が一方的に攻めることができる形になった。
図6:55手 投了図
投了図以下、△9四飛と香車を取ると▲9五歩で飛車が詰むし△8一飛と飛車が逃げても▲9三香成が次の▲8二成香を見て厳しい。先手玉が堅く反撃の余地もないのも見逃せない点だ。
横歩取りという戦型は駒組みで一手ミスをするとあっという間に崩壊してしまうスリリングな戦型であるため、アマチュア間ではなかなか人気がない。しかし、序中盤の研究がそのまま勝ちにつながるので達成感を得やすい戦型だと個人的には考えている。
横歩取りを指すアマチュアがもっと増えて欲しいと思う今日このごろである。
図3の局面が王位戦第3局でも登場しましたね。
羽生王位は△6五桂と仕掛けて優位に立ったものの最終盤でトン死という結果には驚きました。
図3の局面で△6五桂が成立するなら横歩取り△8五飛戦法もまだまだやれそうですね。